怪しい空模様と男

最初の運送屋の掃除が終わって足早に次の掃除の場所であるオフィスビルに向かう。時計は8時を回っていた。厚い雲に覆われた夜だったが何とか雨は持ち堪えている。このまま早く終わらせようとダッシュで2棟あるビルの最初のトイレ掃除を終えて、向かいのビルにあるトイレの場所に向かった。


まずは1階にある男子・身障者・女子と3つ並んでいるトイレの男子と身障者の掃除を終えたところで最後の女子トイレに取り掛かろうとしたらドアの下にある通気口が壊れて外れていた。ここのトイレは全て専用の鍵が無いと入れない。ドアを開けると点いてるはずのない室内の電気が点いていた。消し忘れたのか思って、とりあえず外れた通気口を直そうとしたが上手くいかなかった。


壊れた通気口の事は後で報告して先にトイレを掃除しようと思ったら何と誰かがトイレを使用している。「こんな時間に誰?」と思ったが当然女の人だと思ってすぐ出ようとしたら中からワーカーと思われる作業着のズボンが見える。「女?」、変に思ったけどその人が出て来るまで待っていたら、そこから出て来たのは道路工事で働くようなワーカーのオッさんだった。


女子トイレを使っていたこのヤバそうなオヤジ、たぶん通気口を外して侵入したんだとすぐに分かった。「ここで働いているのか?」と尋ねたらぬけぬけと「そうだ」と答える。な訳ねえだろと思ったがそれ以上は何も言わなかった。この男がそそくさと去って行った後はさすがに嫌な予感がしたけど便器を見たら意外にきれいだったのだが、よく見るとそばに注射器が落ちていた。


このオヤジ、トイレに入ってドラッグやってやがった、この一部始終をボスに携帯で伝えると証拠の写真を送ったりレポートしたりで結局この日の掃除は11時過ぎまでかかってしまった。全くろくでも無いと思ったが唯一救いだったのは、今にも降りそうな怪しかった空だが最後まで雨が降らずに持ってくれたことだった。