台風の中で

午前中の風と雨をもたらした月曜日の天気はその後サイクロンに発達して午後から強風と横殴りの大雨に変わり、うちの玄関先の大きな木も太い枝が何本も折れてしまいガレージに車を入れることが出来なくなってしまった。市役所に連絡したが今はそれどころじゃないと無碍に突っ返されてしまった。


今もその木は玄関先のスロープに横倒しのまま放置してある。 自分はと言うとそんな日に限って掃除の仕事をしなくてはならなかった。店を閉めた後に浮かない気分で土砂降りの雨の中、車を走らせて運送会社に着くと既にゲートが閉まっていてチェーンでしっかりと施錠が掛けられていた。


横殴りの雨に打たれながら施錠を外してオフィスに入ろうとすると、ここでも既にアラームが掛けられていてもう始まりから嫌な予感が漂った。 雨ざらしの敷地内をずぶ濡れになりながら倉庫に向かって250メートルほど掃除の道具を持って歩き、思わず「ばか野郎!」と叫びながらも宮沢賢治の言葉を思い起こす。


最後の一番嫌な男子便所のあるフロアーまで滞りなく終えたが、食堂の所では扉から大量の雨水が外から入り込んでいて、そうとは知らずに見えないところに掃除機の柄を突っ込んだ途端に「きゅ~ん」と異様な音がしたと思いきや、その後は何やら焦げ臭い匂いがすると中のモーターが焼けて火花が散り出した。


「だいたい台風の時に掃除なんてやらねえんだよな」なんて思いながら時計を見るとすでに9時を回っていた。外に出でみると雨脚は一向に衰えず風も強いままだ。何だかその夜は壊れた掃除機のことを思い出してなかなか寝付けなかった。普段ならこんな日はツアーがキャンセルになったお客さんで店は大賑わいのはずが、賑わったのはこんな日でもずぶ濡れになりながらウーバーをこなしたかみさんだった。