黒猫

昨晩も掃除の仕事が終わって急いで帰宅すると待ちわびたように柴犬のハチが庭で駆け回っている。「さぁ、行こう」と声をかけ、毎度遅い時間になってしまう夜の散歩に急いで出かけようとすると夜空では自分たちの散歩を見守るように大きなオレンジ色の三日月がにんまりと笑っていた。


いつもとは違うルートの道を選んで歩いていると前方の広い道路の真ん中に黒猫が座って待っている。ここは住宅街なので夜は車が殆ど走ることは無い。普通、猫は犬を見ると逃げて行くけどこの猫は逃げるどころか自分のところによって来て、自分の足元に体をスリスリと擦り付けながら離れようとしない。


それでもハチが近寄ろうとすると背中を立てながら「キーッ」と声を鳴らして威嚇する。夜の遅い時間ではリードを外して散歩するのだが、特に猫に興味の無いハチはそそくさと離れて別の場所に行ってしまった。ハチがいなくなるとまた自分の足元に寄って来てスリスリと足を擦り始めた。


頭を撫でてやると「ニャー, ニャー」と甘えているのかじっとして座っていた。背中を擦ると痩せていて背骨がくっきりと分かった。飼い猫なのだろうか? たぶん、そうだろう。
暫らく自分たちに着いて来たが、ふと立ち止まりそれ以上は来なかった。その後もこの黒猫は自分たちをずっと見ていた。餌が欲しかったのかな? これを見ていた三日月は相変わらず笑っていた。