節目の年

86歳になった父親が自分たちの帰国を首を長くして待っている。先日の電話でも「どうなんだよ、店の方は? 住む家はあるんだからいつでも帰って来れるよ、ここでバイトでもすれば何とかなる、もうお前たち、無理なのは分かっているから、いつでも帰って来ていいんだよ」。


最後に自分たちの今の置かれている状況が厳しいことを思って「お金が必要だったら言え」と短い言葉で父は締めくくった。かみさんには自分には言わないで欲しいと言いながら「溜まってあった年金の催促の通知は払ってあるからそっちは大丈夫、年金が無いと困るでしょ?」と言ったらしい。かみさんは涙が止まらなかったようだ。


こんな話を86歳になる父親から聞かされるともう、自分は悲しいのを通り越して涙も出ない。父は「少し家を直せば二人住めるから」というのが口癖だ。実家は大正時代に建てた家なのでかなりガタが来ている。それでも帰る家があるというのは本当に有難い。そして何よりも「日本に帰る」という父親の願いを早く聞いてあげたい。


もう、父に残された時間は余り無い。それでも、自分たちは決めた、今年のクリスマスまではこの店を続けようと。そこまで店が持つかどうか分からない。そして何より父親が心配だが、決めたところまでは何とかやり抜きたい。開店からちょうど21年が経った。22年目は間違いなく自分たちの節目の年になるだろう。