誰にもぶつけられない怒り

暮れかけたエスプラネード沿いに面したホテルのテラスでビールやワインを楽しむ人たち、その横でデリバリーフードを持ちながら自分はこの笑いの絶えない人たちを嫌でも見ながら通り過ぎて行く。恒例のウーバーのプロモーションでかみさんの「さぁ、やろう」という掛け声と共に重い腰を起こして出動する。


そこで目に入ったのは同じ境遇に置かれた知り合いの女性だった。自分がピックアップしたレストランと同じフードを彼女もテラスのテーブルでデリバリーの袋に詰めている。しかし彼女は自分に気付いていない。いつも日曜日のこの時間に合わせて彼女もウーバーのデリバリーをやっているのは知っている。


ちょうど3カ月ぐらい前だったと思うが偶然、日曜日のこの時間にウーバーをやっている彼女を見かけた。「今、休憩していたところ」と車の中から話す彼女の目には薄っすらと涙が溜まっていた。それを見て「ちくしょうッ! 何で俺たちばっかりこんな目に合わなきぁいけないんだ!」と怒りが沸いたのを覚えている。


ふっと何か耐え切れない感情が彼女の胸に込み上げたのだろうか? 同じ場所にいる自分にもこの流した涙の意味がどれほど辛いか想像に難くない。 「俺たち何か悪いことした?」「何故こんな目に合わせる?」と叫ぶこの怒りを誰にもぶつけられないことは分かっているんだけど、この腹立たしさが何度も心の底から込み上ってきて、その度に心が折れそうになるのは自分だけではないのかもしれない。