大晦日

朝、サイドボードの上に飾られている母親の写真に手を合わせて、「今日は大晦日だよ」と報告、いつものようにおりんを鳴らして再び手を合わせた後に「お母さん、行って来るよ」と言って家を出た。母には申し訳ないが線香は日本製の貴重なものを使っているので、いつも半分に折ってお供えしている。


飾られている写真は息子がちょうど1歳になった頃、母が隣に座っていっしょに写っている写真で日本の実家で取った時のものだ。息子は金魚の柄の浴衣を着ていて季節は夏、今から20年も前の写真で、母親もまだ全然元気なころだった。この写真はかみさんが特に気に入っていて食事するテーブルの横に飾っている。


最近は「お母さん、もうすぐ日本に帰るから待っててね」と心の中で呟くことが多くなった。いつも年末年始のこの時期は一番忙しい時だったので、日本に帰っていっしょに過ごすことは出来なかったけど来年は何とかいっしょに過ごせそうだ。考えてみたら両親とお正月を共にしたのは学生の頃が最後だったかもしれない。


来年の大晦日は母が眠っているお墓でいっしょに年越しそばでも食べたいと思っている。だから当日はきれいな青空が広がることを願いたい。日本の大晦日、一日中慌ただしくも何か神聖なイメージが頭から消えない。来年は無き母と父とかみさんともしかしたら息子もいっしょに一家団欒でこたつを共に囲みたい。自分はというと心に響くあの除夜の鐘の音をずっと深く静かに聞いていたい。